登場人物
アキ
高校2年。放送部部長。真面目。放送はきちんとやりたい。
ユウ
高校2年。軽口が多いが、周囲をよく見ている。
ミナ
高校2年。思ったことを比較的はっきり言う。
ソラ
高校1年。おとなしいが、ときどき核心を突く。
ナオ
高校2年。文化祭実行委員。放送依頼を次々と持ち込む。
ハル
高校2年。マイペース。食べ物関係の情報には妙に敏感。
リン
高校2年。一歩引いてみんなを見ている。
※役名・性別は上演団体に合わせて変更可。
1場 残り28分
文化祭終了まで、あと28分。
放送室。
机、椅子、マイク、放送卓。
壁に時計。
できれば観客から残り時間が分かる表示があるとよい。
アキ、マイクの前。
ユウ、ミナ、ソラ、ハル、リン。
ナオが紙を持って入ってくる。
ナオ「次」
アキ「はい」
ナオ「二年三組」
アキ「内容は?」
ナオ「焼きそばのソースがありません」
間。
ユウ「事件だ」
ミナ「放送すること?」
ナオ「向こうは事件だと思ってる」
ハル「ソースなしで焼きそばは無理でしょ」
ミナ「食べ物側につくな」
アキ、紙を見る。
マイクON。
アキ「お知らせします。二年三組の焼きそばは――」
止まる。
マイクOFF。
アキ「ソースなくて何売ってるの」
ユウ「焼いたそば」
ミナ「そのまま」
ハル「塩ならいける」
アキ「そういう話じゃない」
マイクON。
アキ「二年三組の焼きそばは、現在販売を一時休止しています。再開までしばらくお待ちください」
マイクOFF。
アキ「次」
ナオ「落とし物」
アキ「何?」
ナオ「恐竜の頭」
間。
ソラ「頭だけ?」
ナオ「頭だけ」
ユウ「本体は?」
ナオ「文化祭を楽しんでるんじゃない?」
ミナ「怖いよ」
リン「何色?」
ナオ「緑」
ユウ「そこ重要?」
リン「恐竜探すなら」
ユウ「頭だけだけどね」
アキ、マイクON。
アキ「落とし物のお知らせです。緑色の恐竜の――」
止まる。
OFF。
アキ「頭部?」
ミナ「怖い」
ユウ「頭」
アキ「頭って言うの?」
ナオ「現物そう書いてある」
紙を見せる。
ソラ「『きょうりゅう あたま』」
ユウ「潔い」
アキ、ON。
アキ「緑色の恐竜の頭の落とし物が届いています。お心当たりのある方は、本部までお越しください」
OFF。
ユウ「恐竜本人でも?」
アキ「次!」
ナオ、もう一枚。
ナオ「唐揚げ、残り十二個」
ハルが顔を上げる。
ハル「どこ?」
間。
ナオ「今、個人的に聞いた?」
ハル「うん」
ミナ「放送しないよ」
ハル「しようよ」
アキ「しません」
ナオ、時計を見る。
ナオ「あと二十八分」
ユウ「文化祭って最後の三十分が一番うるさいよね」
ミナ「終わるから駆け込むんでしょ」
リン「終わるって分かると、急にやりたくなるんだよ」
一瞬。
ユウがリンを見る。
リンは普通に紙を整理している。
ナオ。
ナオ「じゃ、また持ってくる」
アキ「できれば減らして」
ナオ「無理」
ナオ、退場。
アキ、机の紙を整理する。
一枚、古びた紙が落ちる。
ソラが拾う。
ソラ「これ、何ですか」
アキ「何?」
ソラ、読む。
ソラ「『最後の放送』」
全員、少しだけ止まる。
2場 残り24分
ソラが古い紙を持っている。
ユウ「最後の放送?」
ミナ「何それ」
ハル「放送部の遺言?」
アキ「やめて」
アキ、受け取る。
アキ「古いな」
ユウ「いつの?」
アキ「分かんない」
ソラ「裏」
アキ、裏返す。
アキ「『文化祭、最終放送』」
ユウ「そのままだった」
ミナ「期待させないで」
リン、紙をのぞく。
リン「手書きだ」
ハル「昔はパソコンなかったんじゃない?」
ミナ「どれだけ昔だと思ってるの」
ユウ、棚を探す。
アキ「何してるの」
ユウ「こういうの見つけたら、関連資料を探す」
ミナ「なんで」
ユウ「物語が始まりそうだから」
アキ「始めなくていい」
ユウ、古いファイルを見つける。
ユウ「あった」
アキ「あるんだ」
ファイルを開く。
文化祭ごとの紙が入っている。
ソラ「毎年ある」
リン「最後の放送?」
アキ、一枚取る。
アキ「みたい」
ナオが飛び込んでくる。
ナオ「次!」
全員。
アキ「今!?」
ナオ「今」
紙を渡す。
ナオ「迷子」
ユウ「人?」
ナオ「着ぐるみ」
間。
ミナ「また頭ない?」
ナオ「これは全部ある」
ソラ「よかった」
アキ、マイクへ。
3場 残り21分
放送終了。
マイクOFF。
アキ「……で、これ」
古いファイル。
ユウが一枚読む。
ユウ「平成二十二年度」
少し格好をつけて。
ユウ「『青春とは、終わらない放送である』」
間。
ミナ「何それ」
ユウ「先輩の最後の一行」
ミナ「先輩ごめんなさい。分かりません」
ハル、別の紙。
ハル「これいい」
アキ「何?」
ハル「『購買のコロッケパンは、最後まで一度も買えませんでした』」
ハル「分かる」
ミナ「分かるな」
ユウ「最後の放送でそれ残したの?」
ハル「大事なことだったんだよ」
ソラ、別の一枚。
ソラ「これは短いです」
読む。
ソラ「『聞いてくれて、ありがとう』」
少しだけ静かになる。
リン「……いいね」
アキ、今年の紙を探す。
アキ「今年は?」
ユウ。
ユウ「ないんじゃない?」
ソラ、ファイルの最後を見る。
ソラ「あります」
一枚取り出す。
真っ白。
ミナ「何も書いてない」
アキ「空欄?」
ソラ、下の小さな文字に気づく。
ソラ「下」
アキ、読む。
アキ「『今年のあなたたちへ』」
間。
アキ「『最後の一行をお願いします』」
一同、今年の空欄を見る。
そこへナオ。
ナオ「訂正」
誰も反応しない。
ナオ「……何?」
ユウ「今、歴史に触れてる」
ナオ「そう」
紙を見る。
ナオ「唐揚げ、残り五個」
ハル。
ハル「減った!」
一同、現実へ戻る。
ミナ「そこ!?」
ユウ「文化祭が動いてる」
4場 残り17分
今年の空欄が机の中央にある。
アキ「最後の一行って言われても」
ユウ「何でもいいんじゃない?」
ミナ「一番困るやつ」
ハル「『唐揚げ食べたかった』」
ミナ「先輩と同じ系統にするな」
ソラ「来年の人が読みますよ」
ハル「じゃあ残るの?」
ユウ「たぶん」
リン「ずっと?」
アキ「ファイルが捨てられなければ」
ユウ「急に現実的」
リン、空欄を見る。
リン「残る言葉って、難しいね」
ミナ「普段そんなこと考えてしゃべらないし」
ユウ「俺は全部後世に残ってもいいけど」
ミナ「今までの全部?」
ユウ「やっぱり選びたい」
ナオ、入る。
ナオ「またいい?」
アキ「もう聞かない」
ナオ「聞いて」
別の依頼。
放送を処理する。
その最中。
ユウ「そういえば来週の片付け当番――」
リンが一瞬顔を上げる。
リン「あ――」
ナオ「ごめん、追加!」
会話が切れる。
リンは続きを言わない。
放送が続く。
5場 残り12分
依頼が少し落ち着いた。
空欄。
アキ「決めよう」
ユウ「まだ十二分ある」
アキ「十二分しかない」
ユウ「同じ十二分なのに怖いな」
ミナ「何を残したい?」
ハル「唐揚げ」
ミナ「お前は一回そこから離れろ」
ソラ「最後に言いたいこと、じゃないですか」
アキ「最後に?」
ソラ「だって最後の放送だから」
ユウ。
ユウ「じゃあ、最後なら言うこと」
ミナ「何」
ユウ「普段言わないけど、最後なら言うこと」
ハル「ありがとう、とか?」
ミナ「急に普通」
ハル「普通でいいじゃん」
少し間。
アキ「リンは?」
リン。
リン「え?」
アキ「最後に言いたいこと」
リン「……ない」
ユウ「即答」
リン「ないっていうか」
止まる。
ミナ「何」
リン、時計を見る。
リン「今じゃなくていい」
アキ。
アキ「でも最後なら――」
リン。
リン「最後だったら、言わなきゃダメ?」
空気が少し変わる。
リン自身も、自分が強く言ったことに気づく。
リン「……ごめん」
ユウ「いや」
間。
ナオが入ってくる。
今度は少し静か。
ナオ「放送、一件」
アキ、受け取る。
日常の放送へ戻る。
しかし空気は戻りきらない。
6場 残り7分
放送終了。
マイクOFF。
ミナ。
ミナ「リン」
リン「何」
ミナ「さっきの、何」
リン「何でもない」
ミナ「何でもなくないでしょ」
ユウ「ミナ」
ミナ「だって」
リン。
リン「……私、来週、転校する」
静寂。
誰もすぐには言わない。
ハル。
ハル「……来週って、普通にすぐじゃん」
リン「うん」
ミナ「なんで言わなかったの」
リン、答えようとする。
ミナ「ずっと決まってた?」
リン「少し前から」
ミナ「じゃあ、なんで」
リン「今日まで、普通にしたかった」
ミナ「普通って何」
リン「今日が『リンの最後の文化祭』になるのが嫌だった」
間。
リン「普通に文化祭やって」
リン「普通に放送して」
リン「普通に終わりたかった」
誰も言わない。
ユウ。
ユウ「最後だったら、全部言わなきゃダメ?」
ミナ、ユウを見る。
ユウ「言わないでいたいことだってあるでしょ」
ミナ「……分かるけど」
間。
ミナ「……言ってほしかった、って思うのも、こっちの勝手なのかな」
リン。
リン「勝手じゃないよ」
ミナ「じゃあ言ってよ」
リン、少し困って笑う。
リン「どっち」
ミナも、少しだけ笑ってしまう。
アキは何も言っていない。
リン。
リン「アキ?」
アキ「……」
リン「怒ってる?」
アキ「違う」
間。
アキ「今日言わなかったら、たぶん私、ずっと言えないから」
リンを見る。
アキ「寂しい」
それだけ。
リン。
リン「……うん」
短い沈黙。
そこへナオ。
入口で空気を察する。
ナオ「……今、入っていい?」
ユウ。
ユウ「もう入ってる」
ナオ「それはそう」
少しだけ空気が戻る。
ナオ、紙を見る。
ナオ「唐揚げ、完売」
ハル。
ハル「……終わった」
ミナ。
ミナ「今日いちばん落ち込んでる」
小さな笑い。
時計。
残り時間は進んでいる。
7場 残り3分
今年の空欄。
アキ「あと三分」
ユウ「決まってない」
ミナ「何書く?」
ハル「『唐揚げは早めに買え』」
ナオ「来年への実用情報」
ソラ「最後に言いたいこと」
一同、考える。
リン「全部言わなくてもいいと思う」
ミナ。
ミナ「うん」
リン「でも」
空欄を見る。
リン「言いたいことまで、言わなくていいことにしなくてもいい」
アキ。
アキ「……それ書く?」
ユウ「長い」
リン「じゃあやめる」
ユウ「諦め早いな」
ソラ。
ソラ「今日のことは?」
アキ「今日?」
ソラ「文化祭」
ナオ「終わるよ」
ハル「唐揚げも」
ミナ「それはもういい」
ソラ。
ソラ「今日ここにいたこと」
一同、ソラを見る。
ソラ、少し困る。
ソラ「……とか」
ユウ。
ユウ「いいじゃん」
アキ、紙に書く。
ゆっくり読む。
アキ「『今日ここにいたことだけは、忘れないでください』」
間。
リン。
リン「いいと思う」
ミナ。
ミナ「うん」
ナオ、時計を見る。
ナオ「あと一分」
全員、動く。
アキ、マイクの前へ。
紙を置く。
一度、深呼吸。
8場 残り0分
マイクON。
アキ。
いつもの放送の声。
アキ「ご来場の皆さまへお知らせします」
それぞれが自分の場所につく。
アキ「本日の文化祭は、まもなく終了となります」
短い間。
アキ「これで、今年の文化祭放送を終了します」
アキ、紙を見る。
これまでならOFFにして言うような言葉。
しかしマイクはONのまま。
アキ「最後に、放送部から一つだけ」
一同、アキを見る。
アキ「今日ここにいたことだけは、忘れないでください」
間。
アキ「ご来場、ありがとうございました」
マイクOFF。
時計。
0。
しばらく誰も動かない。
ユウ。
ユウ「終わった」
ナオ。
ナオ「終わったね」
ハル「唐揚げも」
ミナ「まだ言う?」
片付けが始まる。
急に日常へ戻る。
ナオ、紙をまとめる。
ナオ「実行委員戻る」
ユウ「お疲れ」
ナオ「そっちも」
少し考えて。
ナオ「終わらせないと、次始まらないし」
ユウ「何、急に」
ナオ「別に」
ナオ、退場。
ソラ、椅子を戻す。
ハル、荷物を持つ。
ミナ、リンを見る。
ミナ「明日来る?」
リン「来るよ」
ミナ「明後日?」
リン「来る」
ミナ「来週は?」
リン。
リン「途中まで」
ミナ。
ミナ「そっか」
それ以上言わない。
アキ。
アキ「明日、片付けだからね」
ユウ「結局あるんだ」
アキ「あるよ」
リン。
リン「私も来る」
ユウ。
ユウ「じゃ、片付け当番解決」
リン、少し笑う。
みんな、順に退場していく。
最後の大げさな別れはしない。
リンも出口で振り返る。
リン「じゃあね」
アキ「また明日」
ミナ「明日」
リン、退場。
アキたちも退場。
最後にユウだけが残る。
机の上。
今年の「最後の一行」。
ユウ、それを取る。
古いファイルを開く。
過去の紙。
その最後へ、今年の一枚を入れる。
ファイルを閉じる。
放送室を見る。
マイクはOFF。
時計は0のまま。
ユウ。
ユウ「また来年」
暗転。